就業規則の届出義務と手続きについて解説

更新日:2024/8/26

賃金や労働時間などの労働条件や職場内の規律などを規定する就業規則は、一定の場合には作成し届出する義務があります。 ではどのような場合に就業規則を作成し、届け出る義務があるのでしょうか。 本記事では、就業規則の作成・届出義務と、その手続きについてお伝えします。

就業規則の作成・届出義務について

就業規則の作成および届出義務について確認しましょう。

就業規則の作成義務

労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を雇用する使用者に対して、就業規則を作成する義務を課しています。
労働基準法89条に違反した場合、労働基準法120条1号で30万円以下の罰金に処するという刑事罰が設定されており、就業規則の作成義務は非常に重要です。
事業場における労働条件や職場内の規律を定めた規則集である就業規則は、従業員に対する処遇について会社を拘束するものであり、就業規則を作成することで労使間のトラブルを防止することができます。
労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を雇用する規模の会社について、刑事罰をもって作成義務を課すことで労使間のトラブルを防止し、労働者の地位を保護しようとしているのです。

就業規則の届出義務

上述した労働基準法89条は、作成した就業規則について、行政官庁への届出も義務としています。
そのため、作成した就業規則は、労働基準法に関する行政官庁である労働基準監督署に届出をしなければなりません。
就業規則を作成しても、きちんと届出まで行わなければ、上述した労働基準法120条1号で30万円以下の罰金刑に処する刑事罰の対象になります。
これは、作成した就業規則の内容を労働基準法などの法律の規定に沿ったものにするために、労働基準監督署によるチェックをさせるためです。

社会保険手続きをアウトソーシングするメリット・デメリット

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その他就業規則に関する義務

就業規則については他にも、労働基準法106条で、会社の見やすい場所への掲示・備え付け・書面での公布などによって労働者に周知するよう定められています。
この周知の義務についても、違反をすると労働基準法120条1号で30万円以下の罰金刑に処する刑事罰の対象になります。
労働者負担雇用主負担雇用保険料率
一般の事業5/10008.5/100013.5/1000
農林水産・清酒製造の事業6/10009.5/100015.5/1000
建設の事業6/100010.5/100016.5/1000

就業規則の作成・届出・周知をしない場合のペナルティ

就業規則の作成・届出・周知をしない場合、上述した刑事罰というペナルティの他に、労働基準監督署による指導を受けたり、報告をする義務を課されたりと行政上のペナルティも課される可能性があります。
労働基準法違反があった場合、労働基準監督官は、会社に対する立ち入り検査(臨検)・帳簿などの書類の提出の要求・使用者もしくは労働者に対する尋問をさせることが可能です(労働基準法101条)。
さらに、会社に報告をさせる・出頭を求める、といった義務を課すこともできます(労働基準法104条の2)。
臨検や帳簿等の提出を拒む・虚偽の帳簿を提出する・報告や出頭を拒否する場合には労働基準法120条4号・5号により30万円以下の罰金刑が課されることになります。
また、場合によっては労働基準監督署による公表が行われたり、ニュースなどの報道の対象になったりして、企業イメージを毀損する可能性もあるでしょう。

就業規則の届出について

就業規則の届出について知っておくべきことを確認しましょう。

就業規則の届出をするときの必要書類

就業規則の届出をするときに必要となる書類は次の3つです。

  • 届出をする就業規則

  • 過半数代表者もしくは過半数労働組合の意見書

  • 届出書


まず、届出をする就業規則を提出します。
提出の際に2部提出すると、1部が提出され、もう1部は受付印を押印した上で返却してくれます。
提出した就業規則を確認できるように、2部提出するのがよいでしょう。
就業規則を作成する上では、労働者の過半数を代表する労働者(過半数代表者)か、従業員の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)から意見を聴取する必要があり(労働基準法90条1項)、その要件を満たしたことを示すために意見書の提出をすることになります。
なお、過半数労働者もしくは過半数労働組合が意見書の作成に協力しない場合には、報告書を作成してこれに代えます。
意見書の作成方法については特に定められたものはなく、任意の様式を用いて問題ありません。
労働局のホームページなどでひな型をダウンロードすることができるため、これを利用するのがよいでしょう。
届出書については労働基準監督署で取得できる他、都道府県労働局などのホームページでダウンロードします。
例:様式集 (必要な様式をダウンロードしてご使用下さい。)|東京労働局

付属規定などの届出義務

就業規則を作成する場合には、さらに細かい規定を定めるために、付属規定を置くことがあります。
これらの付属規定について、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項や、記載をすれば効力を持つとされている相対的必要記載事項を定めている場合には、就業規則と一体となっているといえるため全て提出しなければなりません。
例えば、契約社員就業規則・パート社員就業規則といった、契約形態が異なる社員について別の付属規定を設けている場合、労働者に関する規定である以上就業規則で定めるべき事項になるので、提出する義務があります。
また、賃金規程、育児介護休業規程、退職金規程、旅費規程などは、絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項を定めるものなので、記載することが必要です。
就業規則の絶対的記載事項・相対的記載事項については以下のものが挙げられます。

<絶対的記載事項>

  • 始業と終業の時刻

  • 休憩時間

  • 休日

  • 休暇

  • シフト制の場合の就業時転換に関する事項

  • 賃金の決定方法・決定要素、賃金の計算方法・体系

  • 賃金の締め日・支払い日

  • 昇給に関する時期や条件

  • 退職に関する事項(手続き・解雇の理由・定年など)



<相対的記載事項>

  • 退職手当に関する事項(労働者の範囲・計算に関する事項・支払い方法と支給時期)

  • 退職手当を除く一時金、臨時の手当に関する事項

  • 最低賃金額

  • 食費・作業着・作業用品などの負担について

  • 安全および衛生に関する事項

  • 職業訓練に関する事項

  • 業務上および通勤途上の災害補償や業務外の傷病に関する事項

  • 表彰(種類・事由・手続きなど)

  • 制裁(種類・事由・手続きなど)

  • 休職、出向、出張旅費などに関する事項

就業規則の届出先

労働基準法89条は、作成した就業規則について、行政官庁への届出を必要としています。
そして、労働基準法に関する行政事務の届出先となる行政官庁は、厚生労働省の出先機関として労働基準法などの法令についての事務を担当する労働基準監督署です。
労働基準監督署は全国に複数あり、就業規則は事業所の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
所轄の労働基準監督署は、厚生労働省のホームページで確認しましょう。
参考:全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省

届出はいつまでに行わなければならないか

就業規則はいつまでに届出を行わなければならないのでしょうか。
就業規則の届出について、法令では労働基準法施行規則第49条1項において、「遅滞なく」届け出ることとされるのみで、具体的な時期・日数の指定はありません。
法律用語として「遅滞なく」という場合、「事情の許す限りできるだけ早く」という意味で用いられ、合理的な理由があれば遅滞が許容されるとされています。
一般的に合理的として許容される程度の時間的余裕はありますが、できる限り早く提出するのがよいでしょう。
なお、就業規則が施行され効力を持つ日にまだ届出をしていない場合でも、周知までしていればその就業規則は有効であり、法令に違反しない限り効力が発生すると考えられています。

届出方法

就業規則の届出方法には次の3つがあります。

  • 管轄の労働基準監督署に直接提出する

  • 郵送で提出する

  • 電子申請を行う


届出方法の1つ目は、管轄の労働基準監督署に直接提出する方法です。
特に、労働基準監督署に事前に連絡する必要はありません。
届出方法の2つ目は、郵送で提出する方法です。
この場合、持参と同じように2部就業規則を作成して送りますが、受付印を押印したものを返却してもらうために、郵便切手を貼った返信用封筒を同封します。
3つ目の方法として、就業規則の届出には電子申請の利用ができるようになっています。
この方法であれば、労働基準監督署の営業時間外に届け出ることができ、かつ訪問する必要や郵送のための処理をする必要がありません。
電子申請で行うためには、e-Govのアカウントを取得し、パソコン端末のインターネットブラウザの設定を行った上で、アプリケーションのダウンロードを行います。

本社が一括して届け出ることもできる

就業規則の作成・届出は事業場単位で行うこととされています。
しかし、会社の中には複数の事業場があることもあり、これら全てについて別々に届出をしなければならないとすると、会社に大きな負担を強いることになるでしょう。
そのため、就業規則の届出について、本社一括届出制度というものが用意されています。
本社一括届出制度とは、本社と本社以外の事業場の就業規則の内容が同一である場合に、本社を管轄する労働基準監督署に一括届出ができる制度のことです。
本社一括届出制度によって、複数の事業所に関する就業規則の届出義務を本社で管理することが可能となります。
本社一括届出制度によって届出をする場合には、次の書類が必要です。

  • 就業規則

  • 過半数代表者もしくは過半数労働組合の意見書

  • 届出書

  • 一括届出の対象事業場一覧表

  • 一括届出の対象事業場の意見書(事業場ごと)

  • 一括届出の対象事業場の就業規則


就業規則・過半数代表者もしくは過半数労働組合の意見書・届出書は控えの分も合わせて2部準備します。
一括届出の対象事業者一覧表には、事業場の名称・所在地・管轄の労働基準監督署・本社の就業規則と同一内容である旨を記載します。一覧表は、控えが欲しい場合は3部準備しましょう。
これらの書式についても特に法令で定めるものはありませんが、都道府県労働局などでひな形を用意していることがあるので、これらを活用しましょう。
例:様式集 (必要な様式をダウンロードしてご使用ください。)|東京労働局
本社を管轄する労働基準監督署に提出し、要件を満たしていれば、就業規則・過半数代表者もしくは過半数労働組合の意見書・届出書がそれぞれ1通と、一括届出の対象事業場一覧表が1通あるいは2通返却されます。
返却されたら、一括届出の対象事業場一覧表・意見書・就業規則を本社管轄の労働基準監督署の配送作業室に送付しましょう。
管轄が東京労働局の場合、送り先は東京労働局労働基準部 監督課内(本社管轄の労働基準監督署)労働基準監督署 就業規則配送作業室となります。
その後は、事業所がある各労働基準監督署に送付されます。
一括届出をする場合、その手続きは労働基準監督署によって手順が異なることがあるので、本社を管轄する労働基準監督署に事前に問い合わせをするようにしましょう。

追加・変更した場合にも届出義務がある

就業規則については途中で追加・変更することがあるでしょう。
例えば、テレワークに関する規定の追加や、賃金に関する評価方法や計算方法の変更が挙げられます。
労働基準法89条は、就業規則を変更した場合にも届出をすることを義務付けています。
そのため、就業規則を追加・変更したときにも、届出をしましょう。

届出がされていない場合の就業規則の効力

就業規則については上述した通り、作成・届出・周知の義務があります。
この場合に届出がされていなかったことによって、その就業規則に基づいて行われた行為の効力が問題になることがあります。
例えば、懲戒処分をする場合には、就業規則に懲戒処分に関する規定を置くことが必要です(労働基準法89条9号)。
しかし、その就業規則の届出がされていない場合に、懲戒処分は有効なのでしょうか。
この点について、届出がされずに行われた懲戒処分としての懲戒解雇の有効性が争われたフジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第2小法廷判決)では、「就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」と判示し、就業規則を作成し周知していれば、就業規則は効力が生じるとしました。
参考:最高裁判所判例集|裁判所ホームページ
そのため、届出がされていなくても、周知がされていれば就業規則の内容に従うことができます。
もっとも届出をしなければ、労働基準監督署からの行政指導を受けるか刑事罰を科される可能性があるので、きちんと届出を行うようにしましょう。

その他

その他の事項としては、次のようなものが記載されます。

  • 教育訓練

  • 安全衛生

  • ハラスメント防止

記載の方法

なお、テレワーク・在宅勤務の就業規則を記載する場合、テレワークに関する就業規則を別途作成するか、就業規定に新たな項目を設けて作成するという方法が取られます。
テレワークモデル就業規則作成の手引きでは、分かりやすさという観点から、新たに作成することが推奨されています。
36協定に関する違反をした場合にもペナルティがあります。
上述の行政指導はもちろん、労働基準法119条1号で労働基準法36条6項に違反した場合の刑事罰も同様に定められています。
労働時間に関する会社名で報道されているものの多くが、36協定に違反しての長時間残業なので、やはり違反をしないように細心の注意が必要であるといえます。

まとめ

本記事では就業規則の届出についてお伝えしました。
就業規則の作成義務がある場合、作成のみならず届出まで行わなければなりません。
就業規則の作成方法や届出義務について分からないことがある場合には、早めに専門家に相談するようにしましょう。

過半数労働組合もしくは過半数代表の意見を聞く

就業規則を変更する場合には、作成する場合と同様に、過半数労働組合もしくは過半数代表の意見を聞くことが必要です(労働基準法90条1項)。
職場の過半数の労働者から組織される労働組合のことを過半数労働組合といい、過半数労働組合がある場合には過半数労働組合から意見を聴取します。
職場に過半数労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する過半数代表者を選任して、意見を聴取します。
これらの意見の聴取をしたものについては、届出の際に意見書として提出することになります。
意見書は就業規則変更届と一緒に厚生労働省のホームページからダウンロードします。

就業規則変更届を提出する

就業規則変更届を提出します。
就業規則を変更した場合には、就業規則変更届を提出することになります。
就業規則変更届については、厚生労働省のホームページから取得できます。
参考:就業規則変更届|厚生労働省 ※Wordファイルがダウンロードされます
上述した過半数労働組合・過半数代表者の意見書もこのファイルの中にあります。

ひな形を使って良いのか

インターネットで検索をすれば容易に就業規則のひな方を入手することができます。
では、このひな形を使って就業規則を作成しても良いのでしょうか。
確かに、これらを利用すれば容易に作成でき、かつ絶対的必要記載事項についても記載を失念することは無いといえるでしょう。
しかし、上述したように、就業規則には業種ごとに作成にあたっての注意点があり、これらをひな形に適切に落とし込む必要があります。
また、会社ごとにひな形に記載されている文言を変更する必要がありますが、その内容が労働基準法等の法律に違反しないようにする必要があります。
ひな形を使う場合には、自社の事情にあっているか、法律に違反していないかなど、慎重に精査しましょう。

専門家への相談の要否

就業規則の作成について、専門家に相談する必要はあるのでしょうか。
就業規則は基本的な事項であり、慎重な作成が求められます。
作成にあたっては労働関係の法律についての知識が必要であり、その内容は非常に難解です。
そのため、できれば専門家に相談しておくのが望ましいといえるでしょう。

まとめ

このページではテレワーク・在宅勤務を導入する場合に就業規則をどうすれば良いかについてご紹介しました。
テレワーク・在宅勤務にあわせた就業規則が必要であり、過半数代表の同意や変更届の手続きも必要です。
どのような就業規則であればトラブルが発生しないかわからない、という場合には必ず専門家に相談することにしましょう。

電子申請を行うメリット

労働保険の年度更新について、インターネットで申請を行う電子申請には、次のようなメリットがあります。


各種機関に直接出向く必要がない
自宅やオフィスからいつでも手続きが可能


まず、上述したように、申告書を紙で提出する場合、直接労働基準監督署などの機関に出向いて手続きをする必要があります。
電子申請の場合、直接出向く必要はありません。
また、申告書を紙で提出する場合、各種機関の窓口が稼働している時間に出向く必要があります。
しかし、電子申請であれば、自宅やオフィスから24時間いつでも行なえます。
移動時間や費用を節約することが可能といえます。

電子申請に必要なもの

労働保険の年度更新の電子申請に必要なものには次の3つがあります。


パソコン
電子証明書
e-Gov(電子政府の総合窓口)のアカウントとアプリケーションのインストール


まず、電子申請はパソコンで使用するアプリが必要となるので、パソコンが必要です。
インターネットが利用できてもスマートフォン・タブレットでは電子申請はできませんので注意が必要です。
次に、労働保険の年度更新には電子証明書が必要です。
電子証明書とは、電子申請をする際に送信する電子データが原本であること・改ざんされていないことを証明するためにつけられるものです。
電子証明書は認証局で作成しますが、e-Govを利用するにあたって動作確認がとれている電子証明書の認証局は、次のe-Govのホームページに公開されています。

参考:
認証局のご案内|e-Gov(URL:https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation/certificate/certification-authority.html

さらに、e-Govのアカウントを取得した上で、パソコンにアプリケーションをインストールする必要があります。
アプリケーションはWindows・Macどちらにも対応しています。

電子申請の手続

労働保険の年度更新を電子申請で行う場合の手続きは次の通りです。

賃金集計表を作成する


紙で行う場合と同様に賃金集計表を作成します。

e-Gov電子申請手続検索を利用して「労働保険年度更新申告」を検索する


e-Govの電子申請はとてもたくさんの種類があります。
労働保険の年度更新の手続きのページには、手続検索から「労働保険年度更新申告」と検索すると遷移することができます。

申請書入力画面に必要事項を入力


労働保険年度更新申告の申請書入力画面に必要事項を入力します。
入力したデータと電子証明書を保管します。

保管したデータを送信


保管したデータと電子証明書の送信を行います。

保険料を納付する


送信が終わると保険料の納付に必要な情報が表示されるので、保険料の納付を行います。

市販の電子申請ソフトや労務管理システムで電子申請を行うことも可能

e-Govは外部連携APIを公開しているので、これを使って申請ができる電子申請ソフトや労務管理システムが市販されています。
これらを用いて労働保険の年度更新をすることも可能です。

まとめ

このページでは労働保険の年度更新についてお伝えしました。
労働者を雇用していると手続きが必要となる労働保険は年度更新が必要で、適切に行わなければペナルティを課せられることもあります。
適切に行えるよう不明点がある場合には専門家に相談するようにしましょう。

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