社会保険手続きにはどのようなものがある?その種類と加入条件・必要書類などについて解説

更新日:2023/11/02

従業員を雇用する場合に社会保険手続きに加入する必要がある、というのはなんとなくわかっているものの、実際にはどんな種類の手続きがあるのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。 社会保険手続きは適切に行わなければペナルティが課せられることもある厳しいもので、漏れなく手続きを正確に行う必要があります。 そこでこのページでは、社会保険手続きにはどのような種類があるか、加入条件と必要書類についてお伝えします。

社会保険手続きの種類

まず、「社会保険」と呼ばれるものにはどのような種類があるのかを確認しましょう。
広い意味の社会保険と呼ばれるものには、次の5種類があります。

健康保険

病気や怪我をして医療機関を受診したときに、医療費や薬代の補償をする制度が健康保険です。個人が全額を支払う国民健康保険とは異なり、会社と労働者が折半で保険金を支払います。国民健康保険との対比をするために「被用者健康保険」と呼ぶこともあります。

厚生年金

会社員が老齢になったときに受け取る老齢年金の制度が厚生年金です。
障害を負った場合に受け取る障害年金、被保険者が亡くなってしまった場合に遺族に支給される遺族年金が含まれます。

介護保険

体が不自由となり介護が必要となった際に、介護サービスを受けるための制度が介護保険です。40歳以上になると加入して保険料の支払いをすることになります。

雇用保険

労働者の生活と雇用の安定と就職の促進のための制度が雇用保険です。
失業した場合の失業給付や、労働者のキャリア形成のための教育訓練給付金などの支給を受けることができます。

労災保険

業務や通勤が原因の怪我・病気に対して給付を行う制度が労災保険です。
怪我や病気の治療に必要な費用を支給する療養給付、仕事を休んだことに対して給付を行う休業給付、怪我や病気で後遺障害が残った場合の障害給付、遺族に対する遺族給付などを受けることができます。

社会保険は狭義の社会保険と労働保険に分類される

社会保険は、健康保険・厚生年金・介護保険の3つを合わせて狭義の社会保険と、雇用保険と労災保険のことを労働保険と呼んで分類することがあります。

記載事項についての解説

就業規則に記載する事項について、特に注意すべき点は次の通りです。

必要的記載事項は全項目記載する


就業規則において必ず記載しなければならない事項のことを必要的記載事項と呼んでいます。

始業時刻・終業時刻
休憩時間・休日・休暇
労働者を2組以上に分けて交代に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
賃金の決定・計算・支払方法
賃金の締め切り及び支払いの時期
昇給に関する事項
退職に関する事項
退職手当を定める場合に、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払い方法、支払い時期に関する事項

これらの事項が記載されていない就業規則を作成しても、労働基準法89条に規定されている就業規則を作成したといえないことになるので、必ず記載します。
モデル就業規則にはこれらを踏まえて多数記載がされています。
例えば、20条は次のような項目が記載されています。
(休日)
第20条 休日は、次のとおりとする。
①土曜日及び日曜日

②国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)

③年末年始(12月  日~1月  日)

④夏季休日(  月  日~  月  日)

⑤その他会社が指定する日

2.業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。


土日祝日を休みとする会社の記載例です。
年末年始・夏季休日については、会社の実情に応じて記載します。
普段は土日祝日ですが、土日祝日に勤務が必要になることに備えて、2項のように休日の振り替えについての記載を置くようにします。

会社の事情に応じて相対的記載事項を記載する


絶対的記載事項のほかに、特定の取り決めをする際には記載しておかなければならない事項のことを相対的記載事項といいます。
主な相対的記載事項には次のものがあります。


臨時の賃金等及び最低賃金額の定めをする場合にはこれに関する事項
労働者に食費・作業用品その他の負担をさせる場合にはこれに関する事項
安全・衛生に関する定めをする場合にはこれに関する事項
職業訓練に関する定めをする場合にはこれに関する事項
災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合にはこれに関する事項
表彰及び制裁の定めをする場合にはその種類及び程度に関する事項
当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合にはこれに関する事項

会社でこれらの定めをする場合には、就業規則に記載するようにしましょう。
安全・衛生についての定め、災害補償や業務外の疾病扶助、従業員に懲戒処分をするための制裁の定めはほとんどの就業規則で記載されるので、モデル就業規則を参考に自社の事情に合わせていた記載を行いましょう。
例えば、モデル就業規則67条は次のように定めています。
(懲戒の種類)
第67条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
①けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
②減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止
始末書を提出させるほか、  日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。
この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

上記の制裁に関する定めを具体化したもので、就業規則で定めた懲戒処分によって、従業員の行為に対する制裁を行うことになります。

その他の任意的記載事項


任意的記載事項とは、絶対的記載事項および相対的記載事項以外の事項の記載のことをいいます。
就業規則は会社と従業員の関係の基本的な事項を記載するものになるので、就業規則の中で必要的記載事項・相対的記載事項以外でも、基本的なルールとして記載すべきといえるものについては、就業規則に記載します。
主な任意的記載事項としては、次のようなものがあります。

就業規則の基本精神
応募・採用に関する事項
副業・兼業・競業に関する事項

モデル就業規則でも記載があるので、自社の事情に応じて記載をしましょう。
例えば、モデル就業規則70条は次のような規定を置いています。

第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2.会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合

この規定は、副業・兼業について会社への届出によって認めつつ、秘密漏洩や競業に関するものについては一定の場合には禁止・制限をするものです。

社会保険の加入条件

これらの社会保険に加入するための条件を確認しましょう。

健康保険の加入条件

健康保険の加入条件は次の通りです。

  • 事業主が健康保険の強制適用事業主である
  • 労働者が次のいずれかに該当する場合
       
    • 正社員
    • 所定労働時間や所定労働日数が正社員の3/4以上の労働者
    • 3/4以下でも次の要件をすべて満たす
      • 週の所定労働時間が20時間以上
      • 2ヵ月を超える雇用の見込みがある
      • 賃金が月額88,000円以上
      • 学生ではない

      • 従業員が101人以上の事業所に勤めている(令和6年からは51人以上)


なお、事業主が健康保険の強制適用事業主は、次のいずれかに該当する場合です。 

     
  • 法人である場合
  • 個人事業主で農林漁業、サービス業など以外で常時5人以上の従業員を雇用する事業所である


なお、強制適用事業主でない場合でも、認可を受けて健康保険に加入することは可能です。 週の所定労働時間が20時間以上であれば加入する義務があり、欠勤や遅刻・早退で実際は20時間を下回っても加入する義務があることには変わりません(他の社会保険の週の所定労働時間20時間以上の要件も同様です)。 学生であっても夜間部や通信制の学生である場合には、加入対象になります(他の社会保険についても同様です)。

厚生年金の加入条件

厚生年金に加入する条件は次の通りです。

  • 事業主が健康保険の強制適用事業主である
  • 労働者が次のいずれかに該当する場合
    • 正社員
    • 所定労働時間や所定労働日数が正社員の3/4以上の労働者
    • 3/4以下でも次の要件をすべて満たす
      • 所定労働時間や所定労働日数が正社員の3/4以上
      • 週の所定労働時間が20時間以上
      • 2ヵ月を超える雇用の見込みがある
      • 賃金が月額88,000円以上
      • 学生ではない
      •  
      • 従業員が101人以上の事業所に勤めている(令和6年10月からは51人以上)
  • 労働者が次のいずれかに該当しない
    • 日々雇い入れられる労働者
    • 2カ月以内の期間を定めて使用される労働者
    • 所在地が一定しない事業所に使用される労働者
    • 季節的業務(4ヶ月以内)に使用される労働者
    • 臨時的事業(6ヶ月以内)の事業所に使用される労働者


日々雇い入れられる労働者に関しては、1ヶ月を超えて引き続き使用される場合には、その日から被保険者となります。
2カ月以内の期間を定めて使用される人であっても、当該期間を超えて雇用されることが見込まれる場合は、契約当初から被保険者となります。
季節的業務に使用される人であっても、であっても継続して4カ月を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となります。
臨時的事業の事業所に使用される人であっても、継続して6カ月を超える予定で使用される場合は、当初から被保険者となります。

介護保険の加入要件

介護保険の加入要件は40歳以上の人です。

残業をさせるには36協定を結ぶ必要がある

労働時間については上記のように1日8時間が上限ですが、現実には残業・早出などで時間外労働をしていることが多いです。
時間外労働をさせるにあたって、労働基準法はいわゆる36協定というものを結ぶことを必要としています。

雇用保険の加入条件

雇用保険の加入条件は次の通りです。

  • 雇用契約が31日以上
  • 労働者の所定労働時間が週20時間以上
  • 学生ではない

雇用保険は法人であっても個人事業主であっても上記の要件を満たす場合には必ず加入する必要があるので注意をしましょう。
雇用契約が31日未満でも、契約更新の可能性がある場合には、雇用保険の加入条件を満たしますので注意しましょう。

労災保険の加入条件

労災保険には、事業所に労働者が雇用される場合にはパート・アルバイト、日雇い労働者を問わず、加入する必要があります。
ただし、次にあてはまる場合には、加入の対象とされません。

  • 執行権を持つ役員である場合
  • 一般労働者と同様の就労をしていない事業主の親族
  • 海外派遣中の従業員

なお、労災保険には、特別加入という制度があり、いわゆる一人親方や自営業者、労災の適用範囲とされていない海外派遣中の従業員のように、労災保険の適用範囲ではなくても加入する制度がある場合があります。

特別条項付き36協定を結んだ場合

仕事によっては、繁閑期があり特定の時期のみ忙しく、上記の時間外労働でも補い切れないこともあります。
そのような特別な事情があり、労使で合意した場合には、労働基準法36条6項で規定されている次の上限時間まで延ばすことが可能です。

1ヶ月の時間外労働100時間未満
時間外労働年間で720時間以内
2~6か月の間の時間外労働・休日労働の平均は80時間以内

です。
なお、36協定の原則の月45時間を超えても良いのは年6回までです。

36協定違反にもペナルティがある

36協定に関する違反をした場合にもペナルティがあります。
上述の行政指導はもちろん、労働基準法119条1号で労働基準法36条6項に違反した場合の刑事罰も同様に定められています。
労働時間に関する会社名で報道されているものの多くが、36協定に違反しての長時間残業なので、やはり違反をしないように細心の注意が必要であるといえます。

社会保険の加入に必要な書類

社会保険の加入に必要な書類は次の通りです。

健康保険・厚生年金の加入に必要な書類

健康保険・厚生年金に加入するのに必要な書類は次の通りです。

健康保険・厚生年金保険新規適用届


事業所が従業員を雇用するために新たに健康保険・厚生年金の新規適用となる場合に必要な書類です。
健康保険・厚生年金保険新規適用届は次の日本年金機構のホームページで取得が可能です。
「健康保険・厚生年金保険新規適用届|日本年金機構(URL:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/jigyosho/20141205.files/0000028541dV4I8Ih3j9.pdf)」

なお、記載例についても公開されているので参考にしてください。
「健康保険・厚生年金保険新規適用届(記入例)|日本年金機構(URL:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/jigyosho/20141205.files/20160928.pdf)」

提出をする際には、提出日の90日以内に発行された会社の登記簿謄本(登記事項全部証明書)が必要です。
また、登記簿上の所在地と事業を行っている所在地が異なる場合、現在の所在地の確認できる書類が必要です(例:賃貸借契約書の写し)。

健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届


従業員を採用した際に、健康保険・厚生年金保険の被保険者となるための書類です。
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届は下記の日本年金機構のホームページで取得が可能です。
「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」|日本年金機構(URL:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hihokensha/20140718.files/0000002415.pdf)」

提出には基礎年金番号が必要となるので、労働者から年金手帳を預かるなどする必要があります。
なお、60 歳以上の方が、退職後1日の間もなく再雇用された場合には、同日付で資格喪失届の提出をした上で、次の①と②の両方または③のいずれかを提出する必要があります。

① 就業規則、退職辞令の写し(退職日の確認ができるものに限る)


② 雇用契約書の写し(継続して再雇用されたことが分かるものに限る) 


③ 「退職日」及び「再雇用された日」に関する事業主の証明書



被扶養者(異動)届


役員・従業員に、配偶者や子供、父母などの扶養家族がいる場合に提出するのが扶養者(異動)届です。
被扶養者(異動)届|日本年金機構(URL:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hihokensha/20141224.files/01.pdf)

この場合、扶養関係を確認するために、提出をする日から90日以内に発行された戸籍謄本(戸籍事項全部証明書)、もしくは住民票の添付が必要です。
また、被扶養者に応じて下記のような書類が必要となる場合があります。

  • 退職証明書もしくは雇用保険被保険者離職票の写し(被扶養者が退職したことにより収入要件を満たすことを証明するのに必要)
  • 雇用保険受給資格者証の写し(雇用保険失業給付受給中もしくは雇用保険失業給付の受給終了により扶養の収入要件を満たす場合)
  • 年金受取額がわかる書類 例:年金額の改定通知書の写し(年金受給中の場合)
  • 直近の確定申告書の写し(自営による収入・不動産収入等がある場合)
  • 課税(非課税)証明書

介護保険の加入に必要な書類

介護保険への加入は40歳になると自動で行われるため、必要な手続きはありません。
そのため、書類も不要です。

雇用保険の加入に必要な書類


  • 保険関係成立届
  • 概算保険料申告書
  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届


保険関係成立届は、成立した日の翌日から起算して10日以内に所轄の労働基準監督署に提出します。
概算保険料申告書は、労働基準監督署・所轄の都道府県労働局・日本銀行のいずれかに提出します。
雇用保険適用事業署設置届・雇用保険被保険者資格取得届はハローワーク(公共職業安定所)に提出します。
雇用保険適用事業所設置届は適用事業所設置日の翌日から起算して10日以内に、雇用保険被保険者資格取得届は雇用した日あるいは雇用保険の加入要件を満たした日の翌月10日までに提出しなければなりません。

労災保険の加入に必要な書類は次の通りです


  • 保険関係設立届
  • 労働保険概算保険料申告書
  • 履歴事項全部証明書1通

雇用した日の翌日起算してから10日以内に以上の書類を揃えて、労働基準監督署に提出をして手続きを行います。

まとめ

このページでは社会保険の種類と加入条件・必要書類について中心にお伝えしました。
必要な手続きが漏れるとペナルティが課せられることもある社会保険なので確実に行うことが求められます。
心配なことがある場合には専門家にも相談するようにしてください。

関連記事