就業規則のひな形と記載にあたっての注意事項について解説

更新日:2023/09/30

常時使用する従業員を10人以上雇用する場合、就業規則を作成する必要があります。就業規則にはどのようなことを記載すべきなのでしょうか?そこで、就業規則のひな型として最も用いられている厚生労働省のモデル就業規則に沿って、どのような事項の記載をすべきかについて確認しましょう。

ひな形として用いられる厚生労働省のモデル就業規則 

就業規則のひな形として利用されることが多いのが、厚生労働省のモデル就業規則です。どのような事項が記載されているのか、どのような内容を記載しているのかについて確認しましょう。

厚生労働省のモデル就業規則

厚生労働省のモデル就業規則は、厚生労働省のホームページに掲載されており、Word・PDFでダウンロードができます。

モデル就業規則について|厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

モデル就業規則では、標準的な記載事項に簡易な解説が加えられているので、参考にしながら自社の事情に応じて記載をしましょう。

記載事項についての解説

就業規則に記載する事項について、特に注意すべき点は次の通りです。

必要的記載事項は全項目記載する


就業規則において必ず記載しなければならない事項のことを必要的記載事項と呼んでいます。

  • 始業時刻・終業時刻
  • 休憩時間・休日・休暇
  • 労働者を2組以上に分けて交代に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定・計算・支払方法
  • 賃金の締め切り及び支払いの時期
  • 昇給に関する事項
  • 退職に関する事項
  • 退職手当を定める場合に、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払い方法、支払い時期に関する事項

これらの事項が記載されていない就業規則を作成しても、労働基準法89条に規定されている就業規則を作成したといえないことになるので、必ず記載します。
モデル就業規則にはこれらを踏まえて多数記載がされています。
例えば、20条は次のような項目が記載されています。
(休日)
第20条 休日は、次のとおりとする。
①土曜日及び日曜日

②国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)

③年末年始(12月  日~1月  日)

④夏季休日(  月  日~  月  日)

⑤その他会社が指定する日

2.業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。


土日祝日を休みとする会社の記載例です。
年末年始・夏季休日については、会社の実情に応じて記載します。
普段は土日祝日ですが、土日祝日に勤務が必要になることに備えて、2項のように休日の振り替えについての記載を置くようにします。

会社の事情に応じて相対的記載事項を記載する


絶対的記載事項のほかに、特定の取り決めをする際には記載しておかなければならない事項のことを相対的記載事項といいます。
主な相対的記載事項には次のものがあります。

  • 臨時の賃金等及び最低賃金額の定めをする場合にはこれに関する事項
  • 労働者に食費・作業用品その他の負担をさせる場合にはこれに関する事項
  • 安全・衛生に関する定めをする場合にはこれに関する事項
  • 職業訓練に関する定めをする場合にはこれに関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合にはこれに関する事項
  • 表彰及び制裁の定めをする場合にはその種類及び程度に関する事項
  • 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合にはこれに関する事項

会社でこれらの定めをする場合には、就業規則に記載するようにしましょう。
安全・衛生についての定め、災害補償や業務外の疾病扶助、従業員に懲戒処分をするための制裁の定めはほとんどの就業規則で記載されるので、モデル就業規則を参考に自社の事情に合わせていた記載を行いましょう。
例えば、モデル就業規則67条は次のように定めています。
(懲戒の種類)
第67条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
①けん責
始末書を提出させて将来を戒める。
②減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止
始末書を提出させるほか、  日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。
この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

上記の制裁に関する定めを具体化したもので、就業規則で定めた懲戒処分によって、従業員の行為に対する制裁を行うことになります。

その他の任意的記載事項


任意的記載事項とは、絶対的記載事項および相対的記載事項以外の事項の記載のことをいいます。
就業規則は会社と従業員の関係の基本的な事項を記載するものになるので、就業規則の中で必要的記載事項・相対的記載事項以外でも、基本的なルールとして記載すべきといえるものについては、就業規則に記載します。
主な任意的記載事項としては、次のようなものがあります。

  • 就業規則の基本精神
  • 応募・採用に関する事項
  • 副業・兼業・競業に関する事項

モデル就業規則でも記載があるので、自社の事情に応じて記載をしましょう。
例えば、モデル就業規則70条は次のような規定を置いています。

第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2.会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合

この規定は、副業・兼業について会社への届出によって認めつつ、秘密漏洩や競業に関するものについては一定の場合には禁止・制限をするものです。

ひな形を利用する場合の注意点

ひな形を利用する場合には次のような点に注意が必要でしょうか。

法改正に対応しているかに注意

最新の法改正に対応しているか注意をしましょう。労働基準法など、労働問題に関する法改正は頻繁に行われます。そのため、就業規則のひな形が古いものだと、最新の法改正に対応していない可能性があります。就業規則のひな形をダウンロードしたページの公開日や更新日などを確認して、最新の法改正に対応しているか注意しましょう。
厚生労働省のモデル就業規則の場合には、最新の法改正への対応が上述のホームページに記載されています。

自社の事情にあっているかに注意

就業規則のひな形が本当に自社の事情にあっているかに注意をしましょう。例えば、厚生労働省のモデル就業規則では土日が休みとされていますが、土日も営業している会社であれば当該記載はきちんと変更しなければなりません。
基本的な事項以外にも、細かく修正しなければならない事項が多数あるのが通常です。自社の運営に問題がないか、就業規則のひな形をよく精査して、自社の事情に合わせて変更するようにしましょう。

特別な労働時間に関する制度がある

以上の1日8時間・週40時間の労働時間制は原則で、業務の必要性や多様な働き方といった観点から、次のような労働時間に関する例外があります。

変形労働時間制


仕事によっては、特定の曜日にのみ忙しいということもありますし、月のうちで特定の週のみ業務が集中するということもあるでしょう。

そのため、1ヶ月を越え1年以内の一定の期間で平均週40時間の範囲に収まっていれば、労働時間に関する定めを超えることができる制度です。

変形労働時間制には、労働時間を1ヶ月単位で計算する1ヶ月単位の変形労働時間制と、1年単位で計算する1年単位の変形労働時間制があります。

フレックスタイム制


業務によっては、すべての労働者が一斉に始業しなくても良いものもあります。
始業時間や就業時間を労働者が決めることができる制度として、フレックスタイム制というものがあります。
フレックスタイム制では、1ヶ月~3ヶ月の精算期間を平均して、週40時間に収まっていれば良いとされています。

みなし労働時間制(裁量労働制)


みなし労働時間制とは、一定の時間労働したとみなして、給与を計算するもので、労働者は始業時間や就業時間を自由に決めることができる制度をいいます。
労働時間は、後述しますが会社の指揮命令下にあることをいいますが、外回りの営業職のように指揮命令下にあるといえるかどうかの判定が困難である職種が存在します。

このような職種の人に関しては、一定の時間労働したとみなすことが可能です。
みなし労働時間制(裁量労働制)には次の3つの種類があります。

  • 事業場外労働のみなし労働時間制
  • 専門業務型裁量労働制
  • 企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は職種が厳格に定められており、企画業務型裁量労働制は事業運営に関する企画・調査・分析に限られます。

残業をさせるには36協定を結ぶ必要がある

労働時間については上記のように1日8時間が上限ですが、現実には残業・早出などで時間外労働をしていることが多いです。
時間外労働をさせるにあたって、労働基準法はいわゆる36協定というものを結ぶことを必要としています。

残業などの時間外労働をさせるためには36協定が必要

残業などの時間外労働をさせるためには、36協定(さぶろくきょうてい)が必要です。
労働基準法36条は、使用者と労働組合が協定を結ぶことで、労働時間を延長し、休日に労働させることができます。
労働基準法36条に規定されている協定なので、実務では36協定という呼ばれ方をします。

時間外労働・休日労働をさせるための要件


時間外労働・休日労働をさせるための、労働基準法36条の要件を確認しましょう。
まず、労働基準法36条は、使用者と協定を結ぶ相手について、次の2つを規定しています。

労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者

労働組合、過半数を代表する人との間結ぶ協定は書面にする必要があり、その上で行政官庁(労働基準監督署)に届け出る必要があります。

36協定を結んでも上限はある

36協定を結んでいたとしても、無限に時間外労働・休日労働をさせていいわけではなく、労働基準法36条4項で次のように上限が定められています。

月45時間
年360時間

特別条項付き36協定を結んだ場合

仕事によっては、繁閑期があり特定の時期のみ忙しく、上記の時間外労働でも補い切れないこともあります。
そのような特別な事情があり、労使で合意した場合には、労働基準法36条6項で規定されている次の上限時間まで延ばすことが可能です。

1ヶ月の時間外労働100時間未満
時間外労働年間で720時間以内
2~6か月の間の時間外労働・休日労働の平均は80時間以内

です。
なお、36協定の原則の月45時間を超えても良いのは年6回までです。

36協定違反にもペナルティがある

36協定に関する違反をした場合にもペナルティがあります。
上述の行政指導はもちろん、労働基準法119条1号で労働基準法36条6項に違反した場合の刑事罰も同様に定められています。
労働時間に関する会社名で報道されているものの多くが、36協定に違反しての長時間残業なので、やはり違反をしないように細心の注意が必要であるといえます。

労働時間に含まれる時間・含まれない時間

ここまで「労働時間」とだけお伝えしていますが、タイムカードに記載されている時間のみが労働時間になるわけではありません。

会社で労働時間として取り扱っていなかったものの、法律上は労働時間として扱われるものであり、タイムカードによれば労働時間の法令の範囲内になっていても、実際にはもっと多くの時間が労働時間と認定される結果、労働時間の法令違反であると認定されることがあるので注意しましょう。

労働時間に含まれる時間

そもそも労働時間とは、労働者が会社の指揮命令下にいる時間のことを指します。
そのため、タイムカード上で労働時間としてカウントをしていない場合でも、会社の指揮命令下にいる場合には労働時間に含まれることになります。
よく労働時間にカウントされないものの、実際には労働時間であるものとして、次のものが挙げられます。

制服や作業着への着替えの時間
始業前の朝礼
始業前の清掃を義務付けている場合
仮眠時間
健康診断
強制参加の勉強会・研修

労働時間が1日8時間であったとしても、始業前に30分清掃と朝礼を行っている場合には、8時間30分労働させていると法律では扱われます。
その結果、時間外労働をさせていることになるので、36協定がなければ労働基準法違反となります。
このような場合にカウントしていない労働時間についての給与の支払いをしていないため、あわせて労働基準法違反となることがあるので、注意が必要です。

労働時間に含まれない時間

労働時間に含まれないものとしては、労働者が会社の指揮命令下にいるといえない場合がこれにあたります。
問題になったものとしてよく挙げられるのが次の時間です。

通勤時間
タイムカードの打刻を待っている時間
自主的に始業前に清掃をしたり準備をしたりしている時間
休憩時間

まとめ

このページでは、よく利用される厚生労働省のモデル就業規則を例に、就業規則のひな形についてお伝えしました。
従業員が10人を超える場合に必要となる就業規則ですが、労働基準法などの法令に違反してはいけないなど、作成する上でも注意が必要です。
モデル就業規則をひな形として作成する場合でも、法令で必要とされる事項が記載されているか、自社の事情にあっているか、専門家に相談しながら作成することをお勧めします。
助成金に関するお問い合わせ・無料相談 03-6831-3778

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