【2026年10月義務化】企業が今すぐ取り組むべきカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の実務対応マニュアル

更新日:2026/09/14

法改正

経営者様、人事担当者様、自社の人材不足や採用難にお悩みではありませんか?近年、優秀な人材を確保し定着させるためには、多様性を尊重し、個々の能力を最大限に発揮できる職場環境づくりが欠かせません。その強力なアピール材料となるのが「えるぼし認定」です。さらに、2026年度からは女性活躍推進法の改正に伴い、認定制度に新たな枠組みが追加されるなど、制度のアップデートが予定されています。

本コラムでは、日本社会保険労務士法人が、えるぼし認定の基本から取得のメリット、そして2026年の注目すべき変更点までを分かりやすく解説します。

なぜ今、カスハラ対策の「義務化」が求められているのか?



近年、顧客や取引先からの過度な要求や理不尽な言動(カスタマーハラスメント)によって、現場の従業員が精神的に追い詰められ、休職や離職に追い込まれるケースが深刻化しています。人手不足が深刻な現代のビジネス環境において、従業員の心身の安全を守ることは、企業の存続に直結する重要課題です。

こうした背景から、国はついに法的な規制に踏み切りました。2026年10月1日より、すべての企業に対してカスタマーハラスメント防止対策が義務化されます。

本コラムでは、この法改正のポイントと、企業が今すぐ着手すべき実務的な対応ステップを、専門家の視点を交えて分かりやすく解説します。



2026年10月1日施行!法改正の概要と企業の社会的責任



2026年10月1日の施行に向けて、厚生労働省からは具体的な「防止指針(ガイドライン)」が策定・示される予定です。
この義務化は、単に「社内ルールを作れば終わり」というものではありません。カスハラに適切に対処することは、従業員のメンタルヘルスを守り、安心して働ける環境を整えるために必須の取り組みです。

さらに、毅然とした企業姿勢を対外的に示すことは、不当なトラブルの未然防止や、誠実な大多数の顧客との「健全で良好な信頼関係」をより強固にすることにつながります。結果として、「従業員を大切にするクリーンな企業」としてのブランド力が向上し、採用活動や企業価値の向上にも大きなプラスの効果をもたらします。



何がカスハラに該当する?定義と対象となる「職場・従業員・顧客」の境界線



実務を進めるうえで、まず理解すべきなのが「どこからがカスハラなのか」という定義です。厚生労働省の考え方に基づき、以下の3つの要素をすべて満たすものが「職場におけるカスハラ」と定義されます。

カスハラを構成する3つの要件




  • 1. 顧客や取引先などの第三者による言動であること

  • 2. 業務の性質や状況に照らし、社会通念上、受入れられない(許容範囲を超える)要求や態度であること

  • 3. それにより、従業員の就業環境が脅かされる(身体的・精神的苦痛を与える)こと



専門家のワンポイント注意



電話や対面のやり取りだけでなく、SNSやネット上の書き込み、メールによる過度な攻撃もカスハラの対象に含まれます。

守るべき「従業員」と、対象となる「職場」「顧客など」の広い範囲



法改正において、保護や対応の対象となる範囲は、皆さんが想像している以上に広く設定されています。

項目 法律上の対象範囲 具体例
対象となる
従業員
雇用形態を問わず、自社で働くすべての労働者 正社員、契約社員、パート、アルバイト、さらには派遣労働者(派遣元・派遣先双方に対応義務あり)
対象となる
職場
通常のオフィスや店舗にとどまらない、業務を遂行するすべての場所 取引先のオフィス、打ち合わせに使う飲食店、顧客の自宅、出張先など
行為者
(顧客など)
現在の顧客だけでなく、取引先や将来の顧客候補、関係者すべて 既存顧客、取引先担当者、施設(駅、病院、学校など)の利用者、近隣住民、購入を検討中の潜在顧客


「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の判断基準


単に不満を言われたからと言って、一律にカスハラと決めつけるのは危険です。不当な要求や、手段・やり方が著しく行き過ぎているものが該当します。


  • 内容自体が不当なもの:そもそも要求に正当な理由がない、契約範囲外の過剰な無償サービス要求、実現不可能な要求、不当な金銭・損害賠償の要求など。

  • 判断のプロセス:「1回だけの暴言だから問題ない」とは限りません。言動の目的や頻度、継続性、労働者の体調、行為者との関係性などを総合的に見て判断します。ただし、一回きりであっても、非常に強い暴力や精神的恐怖を与えるようなものであれば、就業環境を害した(カスハラである)と判断できます。






企業が必ず講じなければならない「5つ防止措置」



法改正により、企業は以下の5つの措置を講じることが義務付けられます。これらは、従来のセクハラ・パワハラ対策と共通する部分もありますが、「社外の第三者」が相手であるカスハラ特有の対策(下図の青色部分)が含まれている点が最大の特徴です。

カスハラ防止対策・5つの義務化項目



基本方針の策定と社内への周知・啓発




  • カスハラに対して毅然とした態度で臨むこと、従業員を守ることを明確にした「経営トップの宣言(方針)」を打ち出します。

  • 【カスハラ特有】何がカスハラに当たるのかの定義と、発生時の具体的な対処ルールをあらかじめ定め、従業員に伝えておきます。



相談窓口の設置と適切な運用体制




  • 従業員が安心して相談できる窓口をあらかじめ決め、周知します。

  • 窓口の担当者が二次被害(相談された側からの不適切な対応)を起こさないよう、適切な対応マニュアルや研修を用意します。



トラブル発生時の迅速かつ適切な事後対応




  • 事実関係をスピーディーかつ正確に確認します。

  • 被害を受けた従業員のメンタル・安全を最優先に配慮します(上司が対応を交代して現場から離す、専門家への引継ぎなど)。

  • 問題が起きた顧客への毅然とした対処(出入禁止、サービス停止通告、警察や法務・弁護士との連携など)と、再発防止先を実行します。



【カスハラ特有】対応の実効性を確保するための抑止措置





  • 特に悪質なカスハラ(恐喝、暴力など)を想定し、あらかじめ組織としての対応方針(法的措置など)をマニュアル化して社内に共有しておきます。



プライバシー保護と不利益取扱いの禁止




  • 相談者や関係者の個人情報・プライバシーを守るためのルールを周知します。

  • カスハラの被害や相談をしたことを理由に、従業員を解雇したり、不利益な扱いすることを現金

  • 問題が起きた顧客への毅然とした対処(出入禁止、サービス停止通告、警察や法務・弁護士との連携など)と、再発防止先を実行します。




【専門家アドバイス】中小企業が直面する3つの壁と、失敗しないための現実的解決策



大企業とは異なり、中小企業がカスハラ対策を進めるうえでは「リソース(ヒト・モノ・カネ)」の制限という大きな壁にぶつかります。ここでは、実務上よくある3つの課題と、専門家が推奨する解決アプローチをご紹介します。

壁①:「専任の相談窓口を設置する余裕がない」




  • 現実の課題:人事労務の担当者が少なく、ハラスメント窓口を別々に作ると管理が追いつきません。

  • 専門家からの解決策既存のパワハラ・セクハラ相談窓口や、一般的な人事相談窓口と**「一本化(兼務)」して構築**するのが現実的です。その際、窓口担当者が「これは社内の問題ではないから」と門前払いしないよう、「顧客からのトラブルもここで一括して受け止める」という窓口規程の改定を行うことが重要です。また、初期相談のトリアージをスムーズにするため、外部の社労士や弁護士と連携し、窓口のサポートを委託することも有効なアプローチです。



壁②:「『正当なクレーム』と『カスハラ』を切り分けられない」




  • 現実の課題「不当な言動には毅然と対応する」と言っても、現場の従業員は「自分のミスが原因だから、怒られても仕方がない」と思い込んで抱え込んでしまいます。

  • 専門家からの解決策顧客の「正当な意見を言う権利」を侵害してはなりません。たとえば、「購入した充電器が異常発熱した」というケースでは、顧客には安全に使う権利があり、改善を求める当然の権利があります。 しかし、「だからといって従業員を土下座させる、人格を否定する暴言を吐く」ことは許されません。企業は、「顧客の言い分(要求内容)が正しいか」と「要求を伝える手段(言動・態度)が適正か」の2軸でグラデーション(判断基準)を作成し、「この暴言・この時間以上の拘束は、理由がどうあれカスハラとみなす」という社内基準を数値や言葉で言語化・ルール化しておく必要があります。



壁③:「録音や録画は顧客とのトラブルを悪化させそうで怖い」




  • 相談者や関係者の個人情報・プライバシーを守るためのルールを周知します。カスハラの客観的な証拠を残すために録音・録画は極めて有効ですが、個人情報の観点から無断での運用はトラブルを誘発します。 実務的には、自社のホームページや店舗・オフィスの目立つ場所に「対応品質の向上および事実確認のため、通話を録音(または防犯カメラで録画)しています」という利用目的をあらかじめ公表・提示しておくことが必要です。これにより、相手への強い抑止力になると同時に、従業員が安心して対応できる「盾」の役割を果たします。




従業員を守り、顧客との良好な関係を両立させる「教育研修」の進め方



社内ルールやマニュアルを策定したら、次はそれを現場の従業員に浸透させるための「教育研修」を実施します。研修は、従業員への対処力向上だけでなく、ハラスメントを未然に防ぐ予防効果も期待できます。研修は、一般の従業員向けだけでなく、管理職や窓口担当者向けにも内容を分けて実施することが効果的です。

研修カリキュラムの具体的なイメージ例



A. 全従業員向け:カスハラを発生させない「予防」と「初動」の研修



現場での些細な対応ミスが、顧客の不満を爆発させて大クレーム(カスハラ)に発展することを防ぐためのスキルを学びます。


  • 接客対応の基本:相手の言葉を遮らずに最後まで丁寧に傾聴するスキル、不快感を与えないクッション言葉の使い方。

  • 利用者目線の配慮:サービス提供や待ち時間が長引く場合、事前におおよその目安時間を分かりやすく説明し、顧客に不都合を感じさせない工夫。

  • 好事例の共有:初期対応を迅速・丁寧に行ったことで、こじれることなく円満に解決した過去のクレーム対応事例から学習。



B. 管理職・窓口担当者向け:現場を守る「判断」と「介入」の研修



実際にカスハラと思われる事態が発生した際に、組織としてどう動くかをシミュレーションします。


  • 判断力の強化:正当なクレームと悪質なハラスメントを線引きする基準の理解。

  • 実務対応と連携:現場の担当者をすぐにクレーマーから引き離し、上司が交代する「エスカレーション」の基本フロー

  • 記録の統一:裁判や警察・弁護士連携の証拠となるよう、日時・言動を客観的かつ正確に記録に残す方法。

  • ロールプレイ:実際のカスハラ場面を想定した模擬訓練を通じ、現場の判断スピードと対応力を体で覚える。




おわりに:カスハラ対策は「コスト」ではなく「企業価値を高める投資」

「また新しい義務化への対応か……」と、ため息をつく経営者や人事担当者の方も少なくないかもしれません。しかし、カスハラ対策は、単なる法令遵守の「コスト」ではありません。
従業員が「万が一、理不尽な顧客に遭遇しても、会社が組織として全力で自分を守ってくれる」という確信を持てる職場は、従業員のエンゲージメントを劇的に高め、離職率の低下や採用競争力の強化に直接つながります。
2026年10月の施行に向け、自社の業務形態や実態に合わせた対策を、今のうちから計画的に準備していきましょう。

「自社のマニュアルが法律に適合しているか不安」「まずは何から手をつければいいか分からない」「自社に合わせた従業員研修を企画してほしい」という企業様は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。御社のビジネスモデルと従業員を徹底的に守るための実務対応を、全面的にサポートいたします。

また、10月の施行に向けて、中小企業向けに「カスタマーハラスメント:簡易セルフチェックシート」を作成いたしました。本チェックシートを活用し、自社の現状を確認の上、対応を進めてください。

チェックシートダウンロード(PDF形式)




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