【2025年6月改正】カスハラ対策は「企業の義務」へ!中小企業が今すぐ着手すべき対策とリスク回避術

更新日:2025/12/05

法改正

近年、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は社会問題として広く認識されるようになり、ニュースでも多く取り扱われています。この深刻な状況を踏まえ、2025年6月には労働施策総合推進法が改正され、企業がカスハラを防止するための必要な措置を講じることが事業主の義務となります。
この法改正は、中小企業においても看過できない大きな変化です。義務化の施行日(※政令で定める日)を待つことなく、今から積極的な対策を講じることが、従業員と企業自身を守るうえで極めて重要です。
今回は、法改正のポイント、企業が負うリスク、そして義務化に備えて具体的に実施すべき対策について、社会保険労務士の視点から解説します。

2025年6月の改正の要点:カスハラ対策は「企業の義務」へ



労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の改正により、施行日以降、事業主はカスハラを防止するために必要な措置を講じる義務を負います。
これまでは、厚生労働省によるマニュアルなどが公表されていたものの、法的な義務付けはありませんでした。今回の改正は、カスハラ対策が「推奨される取り組み」から「必須のコンプライアンス」へと変わることを意味します。


法令が定めるカスハラの定義と企業が受ける深刻な影響



法令上のカスハラの定義



2025年6月の法改正では、カスハラの定義が法令において明記されました。カスハラは、3つの要素をすべて満たすものとされています(具体的な内容は今後、指針で示される予定です)。
企業は、今後公表される指針も参考にしながら、自社のカスハラの判断基準を明確化し、その考え方や対応を十分に社内周知しておくことが重要です。

企業と従業員が受ける影響



厚生労働省の調査によると、過去3年間に従業員が受けたハラスメントの種類のうち、カスハラは2番目に多く、企業への相談件数も3番目に多いという結果が出ています。カスハラは、従業員に大きなストレスを与え、通常の業務に支障を来たすだけでなく、心身の不調を引き起こし、休職や離職につながるケースも少なくありません。
また、従業員だけでなく、企業側にとっても影響は深刻です。考えられる主な影響は下記となります。


  • クレーム対応にかかる時間的コストの増加

  • 休職や離職による人員不足

  • 人員不足に伴う生産性の低下



これらの影響を踏まえると、企業におけるカスハラ対策は急務であると言えます。


カスハラ対応の難しさと企業が負う法的責任(安全配慮義務)



カスハラ対応の難しさ



カスハラ対応が他のハラスメント(例:パワハラ)対応と大きく異なるのは、ハラスメントの行為者が自社の役員や従業員ではない点です。このため、企業が行為者に対し指導や懲戒といった直接的な措置を取ることは困難なケースが多くあります。
したがって、現場や人事労務部門など企業内だけの対応では不十分であり、状況に応じて取引先や弁護士、警察などの外部との連携が重要となります。

また、企業規模が大きい側が優位になるなど、取引先との力関係を利用した過大な要求や不当な取引の強制もカスハラとなり得ます。状況によっては、独占禁止法で禁じられている優越的地位の濫用により、刑事罰や行政処分を受ける可能性もあります。

企業が負う法的責任と労災リスク



カスハラが発生しているにもかかわらず企業が適切な対応を取らなかった場合、企業は安全配慮義務違反に問われるおそれがあり、実際に被害を受けた従業員から損害賠償請求が認められた裁判例も存在します。
一方で、企業としてカスハラ対策を十分に講じていたことで、安全配慮義務の責任を免れ、賠償責任が認められなかった裁判例もあります。カスハラ発生時の対策だけでなく、日頃からの予防対策を講じておくことは、従業員だけでなく企業を守るうえで重要です。

なお、精神疾患の労災認定に用いられる「心理的負荷評価表」には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という、いわゆるカスハラに該当する項目が追加されています。

義務化される3つの措置と、今すぐ講じるべき具体的な対策



2025年6月の法改正における施行日以降、企業は雇用管理上必要な措置を講じることが義務となります。必要な措置(指針で具体的な内容が示される予定)は以下のとおりです。


  • 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

  • 相談体制の整備・周知

  • 発生後の迅速かつ適切な対応・抑止のための措置



これらの義務を確実に履行し、リスクを回避するために、企業が今すぐ取り組むべき具体的な対策は以下の通りです。

対策1:基本方針や対応手順の明確化



従業員が安心して働ける環境づくりのため、カスハラ対策の基本方針や企業としての姿勢を明確化しましょう。また、従業員がカスハラを受けた際に現場で慌てず適切に対応できるよう、対応方法や手順などの社内ルールをあらかじめ決めておくことをおすすめします。マニュアルを作成することも有効な対策です。

対策2:相談体制の整備と周知・教育



相談窓口は、カスハラ対策のために特別に設ける必要はありません。2020年に義務化されたパワハラ防止のためのハラスメント相談窓口で、カスハラの相談も受けられるように体制を整える方法があります。

相談窓口の担当者には、一次対応者として事実関係の把握や被害従業員への配慮など、慎重な対応が求められます。カスハラに該当するか判断がつかない場合も含めて幅広い相談に応じるため、担当者向けの教育を定期的に行うことが大切です。

対策3:従業員向けの定期的な教育・研修の実施



顧客等からの迷惑行為や悪質なクレームに対応できるように、従業員への研修や教育を定期的に実施することが重要です。研修では、以下のような内容を盛り込むことをおすすめします。


  • カスハラに関する知識

  • カスハラ行為別の対応方法と注意点

  • 社内ルールや相談窓口などの周知

  • 記録の作成方法

  • ケーススタディ



対策4:被害を受けた従業員への適切な配慮



企業は、被害を受けた従業員の安全確保と精神面への配慮が求められます。例えば、顧客等から従業員を引き離し、上司などが代わりに対応して安全を守る措置や、メンタルヘルス不調の兆候がある場合に専門の医療機関への受診を促すなどの配慮が必要です。

対策5:再発防止への継続的な取り組み



一つのカスハラ事案が解決した後も、同様な事案の再発防止に継続して努めることが重要です。そのため、定期的に社内体制や社内ルールの見直しを行い、適切な体制づくりを継続的に行いましょう。


まとめ:早めの対策が企業を守る鍵



継続的にカスハラ対策に取り組んでいる企業の従業員からは、「カスハラ行為者に対して落ち着いて対応できた」「安心して働けるようになった」などの声が聞かれています。カスハラ対策は、従業員の心身を守るだけでなく、安全配慮義務違反による企業の賠償リスクを防ぎ、企業自身をも守ります。

2025年6月の法改正後は、対応すべき措置を講ずることが企業の義務となるため、まだ準備が不十分な中小企業様は、今から積極的に取り組むことを強くおすすめします。

法改正への対応は日本社会保険労務士法人にお任せください



カスハラ対策は、就業規則の改定、相談体制の設計、従業員研修の実施、さらには取引先との関係性におけるリスク管理(優越的地位の濫用防止など)まで、多岐にわたる専門的な知識と対応が求められます。
特に中小企業様においては、限られたリソースの中で、法令が義務付ける「方針の明確化」「相談体制の整備」「迅速かつ適切な対応」の3つの措置を漏れなく構築し、従業員が安心できる環境を整備することが課題となります。

当社会保険労務士法人は、法改正に対応した社内規定の整備、実効性のある相談窓口の設計、従業員向けの研修プログラムの提供など、貴社の状況に合わせた最適なカスハラ対策の導入を一貫してサポートいたします。
法改正への対応、安全配慮義務のリスク回避についてご不安をお持ちの中小企業経営者様、人事担当者様は、ぜひ一度、当法人にご相談ください。


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