テレワーク・在宅勤務の導入に就業規則はどうすれば良いかについて解説

更新日:2024/8/22

コロナ禍の下で導入が進んだテレワーク・在宅勤務は、コロナ禍が収束した後も新しい働き方として定着しつつあります。 そこで問題となるのが、テレワーク・在宅勤務の導入にあたって就業規則をどうすれば良いかです。 本記事では、テレワーク・在宅勤務を導入するのに就業規則をどうすれば良いかについてお伝えします。

テレワーク・在宅勤務の導入に就業規則はどうすれば良いのか

テレワーク・在宅勤務の導入にあたって、就業規則はどうすれば良いのでしょうか。

就業規則とは

就業規則とは、会社が定める労働条件や賃金・労働時間や職場内の規律に関する規則のことをいいます。
職場において使用者・労働者に共通するルールを明確に定めることで、労使間でのトラブルを避けることができます。

就業規則はどのような場合に作成するか

就業規則はどのような場合に作成するのでしょうか。
労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務としています。
この規定の違反をすると監督官庁である労働基準監督署から行政指導を受けるほか、労働基準法120条1号によって30万円以下の罰金刑に処せられる可能性があります。
また、常時10人以上の労働者を使用する場合ではなくても、会社と労働者との間のトラブルを避けるために就業規則が作成されることがあります。

テレワーク・在宅勤務の導入に就業規則の変更は必要か

では、テレワーク・在宅勤務を導入するにあたって従来の就業規則を変更したり追加する必要はあるのでしょうか。
この点につき、厚生労働省が作成している「テレワークモデル就業規則作成の手引き」によると、「労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。しかし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合には、就業規則の変更が必要となります。」としています。
そのため、就業規則の変更が必要かはケースバイケースといえるでしょう。
しかし、就業規則を変更せずにテレワーク・在宅勤務をさせることが認められるのは、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合に限られます。
現実には、労働条件として勤務場所も記載していることが通常であり、自宅のインターネットや就業環境の整備、通勤手当、労働時間について従来の就業規則では対応できないと定める必要があり、就業規則の変更や追加は避けられないといえるでしょう。
労働者負担雇用主負担雇用保険料率
一般の事業5/10008.5/100013.5/1000
農林水産・清酒製造の事業6/10009.5/100015.5/1000
建設の事業6/100010.5/100016.5/1000

就業規則が無いことで発生するデメリット

就業規則が無いことで発生しうるデメリットとしては次のようなものが挙げられます。

  • 労働時間や給与の額に食い違いが発生する可能性がある

  • 自宅外でテレワークを行うことが発生し情報漏洩やセキュリティ上で問題

  • 会社と労働者間でトラブルに発展する可能性がある


以上より、テレワーク・在宅勤務を導入する場合には、就業規則を変更・追加することが不可欠であるといえます。

テレワーク・在宅勤務の就業規則の記載事項

テレワーク・在宅勤務における就業規則に記載すべき事項について確認しましょう。

定義

テレワークについての定義を行います。
テレワークといっても、在宅勤務・サテライトオフィスでの勤務、カフェや移動中の新幹線や飛行機などの交通機関での勤務を認めるモバイル勤務などがあります。
どのような形態でのテレワークを認めるのかをきちんと定義する必要があります。
在宅勤務を認める場合は基本的に自宅ですが、たとえばマンション・アパートの別の部屋を借りて仕事をする、実家で介護をしながら仕事をするなど、自宅ではない場合もあるので「自宅に準ずる場所」、といった規定も必要となります。

対象者

テレワークの対象になる人を規定します。
よくあるパターンとして「テレワークモデル就業規則作成の手引き」にも認められているものとして次の3つがあります。

  • テレワークを全社員に認める

  • 一部の社員に対してのみ認める

  • 育児・介護・傷病で出勤が困難な社員に対して認める


テレワークを行う場合には当然自宅等にテレワークをするための適切な執務環境と設備が必要となるので、テレワークモデル就業規則にあるような「自宅の執務環境及びセキュリティ環境が適正と認められる者」といった文言と、会社からの許可制とすることは不可欠です。
一部の社員に対してのみ認めるような場合には「自宅での業務が円滑に遂行できると認められる者」などの条項を記載します。
育児・介護・傷病で出勤が困難な社員に対して認める場合には「育児、介護、従業員自身の傷病等により、出勤が困難と認められる者」といった条項を記載します。
また、育児・介護・傷病で出勤が困難な社員にテレワークを認める場合には、「会社は第1項第2号の事実を確認するための必要最小限の書類の提出を求めることがある。なお、傷病手当金の申請をしている者はその申請の写しを持って代えることができる。」など、その事実を確認するための書類の提出を求めることができる旨を記載します。

服務規律

テレワークで就業するにあたっての規律である服務規律について記載します。
特にテレワークをする際には、会社からの資料の持ち出しについて、自宅・サテライトオフィスなど以外の場所で業務をしない、モバイル勤務である場合には会社から貸与しているパソコン以外を利用したりしないように適切な規定を置く必要があります。
次のような記載がモデル就業規則に挙げられています。




(2)在宅勤務の際に所定の手続に従って持ち出した会社の情報及び作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと。
(3)第2号に定める情報及び成果物は紛失、毀損しないように丁寧に取扱い、セキュリティガイドラインに準じた確実な方法で保管・管理しなければならないこと。
(4)在宅勤務中は自宅以外の場所で業務を行ってはならないこと。
(5)モバイル勤務者は、会社が指定する場所以外で、パソコンを作動させたり、重要資料を見たりしてはならないこと。
(6)モバイル勤務者は、公衆無線LANスポット等漏洩リスクの高いネットワークへの接続は禁止すること。


会社外への情報の持ち出しが発生するような場合には、セキュリティガイドラインの策定なども併せて行う必要があるでしょう。

労働時間についての記載

労働時間についての記載を行います。
在宅勤務をするからといって労働時間について何も定めなくても良い、いつでも対応できるようにしなければならない、というわけではなく、きちんと労働時間を定める必要があります。
通常の1日8時間・週40時間を上限とする労働基準法32条や残業についての規定はテレワーク・在宅勤務でも適用されます。
また、残業についての労働基準法36条などの規定も同様に適用されることになります。
フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制などを併せて採用することもあり、この場合もそれぞれの労働時間に関する法律の規定を遵守する必要があります。
特に、事業所外みなし労働時間制を採用するには、「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難」といえる場合でなければなりません。
そのため、次の2要件を満たす必要があります。




①パソコンやスマートフォンが使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
②当該業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと


労働時間と併せて、休憩についての規定もきちんと規定しておきましょう。
テレワーク・在宅勤務をする場合に、通常の労働時間制ではない労働時間に関する定めを置く場合には、労働時間に関する法令順守がきちんとできているかを専門家に確認してもらうことをおすすめします。

勤務時間の管理の方法

勤務時間の管理についても記載が必要です。
勤務時間の管理は、通常の勤務と同様に給与計算のための労働時間の把握に必要なほか、労働安全衛生法に基づく措置として把握する必要があります。
特にテレワーク・在宅勤務では、在席してきちんと執務をしているかを確認するために、テレワーク・在宅勤務をしている人が会社にいる場合でも使いやすいクラウドでの勤怠管理ツールを利用することがあります。
これらを使った勤怠管理をすることを明記します。
また、育児・介護のためにテレワーク・在宅勤務をしているような場合、勤務時間中に中抜けをすることもあるでしょう。
中抜けをする場合の措置についてもきちんと把握し管理できるようにする必要があります。

賃金と手当

賃金・手当についてはテレワーク・在宅勤務でもきちんと定めることになります。
テレワーク・在宅勤務と通勤を組み合わせるような場合には、通勤手当の負担をどのようにするかはきちんと明記する必要があります。
通常の勤務からテレワーク・在宅勤務に移行する際、基本給を減ずることは、労働条件の不利益変更になるので基本的に行うことができません。
また、会社の所在地の都道府県の最低賃金を下回らないこと(最低賃金法4条)にも注意が必要です。

費用負担

従業員の費用負担について定めます。
在宅勤務をする場合、インターネット回線の契約や水道光熱費などの負担が発生します。これらの負担については、労働基準法89条5号で定める必要があるとされており、記載が不可欠となります。
これらの費用負担に対応するための手当てを支給する場合には、その手当ての内容についてもきちんと記載するようにしましょう。

端末の貸与と私有機器の利用について

セキュリティや勤怠管理の観点から、使用するパソコンや端末については会社から貸与したもののみ利用を許可するのが望ましいでしょう。
そのため、パソコン・携帯電話・スマートフォンの貸与や、使用料金の支払いについての規定をします。
また、パソコンやスマートフォンに、会社の許可を得ずにソフト・アプリをインストールすることを禁ずることを規定します。
さらに、私用機器の利用を認める場合の要件や、利用についての届け出などの手続き方法についても規定するのが良いでしょう。

その他

その他の事項としては、次のようなものが記載されます。

  • 教育訓練

  • 安全衛生

  • ハラスメント防止

記載の方法

なお、テレワーク・在宅勤務の就業規則を記載する場合、テレワークに関する就業規則を別途作成するか、就業規定に新たな項目を設けて作成するという方法が取られます。
テレワークモデル就業規則作成の手引きでは、分かりやすさという観点から、新たに作成することが推奨されています。
36協定に関する違反をした場合にもペナルティがあります。
上述の行政指導はもちろん、労働基準法119条1号で労働基準法36条6項に違反した場合の刑事罰も同様に定められています。
労働時間に関する会社名で報道されているものの多くが、36協定に違反しての長時間残業なので、やはり違反をしないように細心の注意が必要であるといえます。

就業規則を変更するときの手続き

就業規則を変更するときには、労働基準法所定の手続きが必要なため、併せて確認しておきましょう。

過半数労働組合もしくは過半数代表の意見を聞く

就業規則を変更する場合には、作成する場合と同様に、過半数労働組合もしくは過半数代表の意見を聞くことが必要です(労働基準法90条1項)。
職場の過半数の労働者から組織される労働組合のことを過半数労働組合といい、過半数労働組合がある場合には過半数労働組合から意見を聴取します。
職場に過半数労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する過半数代表者を選任して、意見を聴取します。
これらの意見の聴取をしたものについては、届出の際に意見書として提出することになります。
意見書は就業規則変更届と一緒に厚生労働省のホームページからダウンロードします。

就業規則変更届を提出する

就業規則変更届を提出します。
就業規則を変更した場合には、就業規則変更届を提出することになります。
就業規則変更届については、厚生労働省のホームページから取得できます。
参考:就業規則変更届|厚生労働省 ※Wordファイルがダウンロードされます
上述した過半数労働組合・過半数代表者の意見書もこのファイルの中にあります。

ひな形を使って良いのか

インターネットで検索をすれば容易に就業規則のひな方を入手することができます。
では、このひな形を使って就業規則を作成しても良いのでしょうか。
確かに、これらを利用すれば容易に作成でき、かつ絶対的必要記載事項についても記載を失念することは無いといえるでしょう。
しかし、上述したように、就業規則には業種ごとに作成にあたっての注意点があり、これらをひな形に適切に落とし込む必要があります。
また、会社ごとにひな形に記載されている文言を変更する必要がありますが、その内容が労働基準法等の法律に違反しないようにする必要があります。
ひな形を使う場合には、自社の事情にあっているか、法律に違反していないかなど、慎重に精査しましょう。

専門家への相談の要否

就業規則の作成について、専門家に相談する必要はあるのでしょうか。
就業規則は基本的な事項であり、慎重な作成が求められます。
作成にあたっては労働関係の法律についての知識が必要であり、その内容は非常に難解です。
そのため、できれば専門家に相談しておくのが望ましいといえるでしょう。

まとめ

このページではテレワーク・在宅勤務を導入する場合に就業規則をどうすれば良いかについてご紹介しました。
テレワーク・在宅勤務にあわせた就業規則が必要であり、過半数代表の同意や変更届の手続きも必要です。
どのような就業規則であればトラブルが発生しないかわからない、という場合には必ず専門家に相談することにしましょう。

電子申請を行うメリット

労働保険の年度更新について、インターネットで申請を行う電子申請には、次のようなメリットがあります。


各種機関に直接出向く必要がない
自宅やオフィスからいつでも手続きが可能


まず、上述したように、申告書を紙で提出する場合、直接労働基準監督署などの機関に出向いて手続きをする必要があります。
電子申請の場合、直接出向く必要はありません。
また、申告書を紙で提出する場合、各種機関の窓口が稼働している時間に出向く必要があります。
しかし、電子申請であれば、自宅やオフィスから24時間いつでも行なえます。
移動時間や費用を節約することが可能といえます。

電子申請に必要なもの

労働保険の年度更新の電子申請に必要なものには次の3つがあります。


パソコン
電子証明書
e-Gov(電子政府の総合窓口)のアカウントとアプリケーションのインストール


まず、電子申請はパソコンで使用するアプリが必要となるので、パソコンが必要です。
インターネットが利用できてもスマートフォン・タブレットでは電子申請はできませんので注意が必要です。
次に、労働保険の年度更新には電子証明書が必要です。
電子証明書とは、電子申請をする際に送信する電子データが原本であること・改ざんされていないことを証明するためにつけられるものです。
電子証明書は認証局で作成しますが、e-Govを利用するにあたって動作確認がとれている電子証明書の認証局は、次のe-Govのホームページに公開されています。

参考:
認証局のご案内|e-Gov(URL:https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation/certificate/certification-authority.html

さらに、e-Govのアカウントを取得した上で、パソコンにアプリケーションをインストールする必要があります。
アプリケーションはWindows・Macどちらにも対応しています。

電子申請の手続

労働保険の年度更新を電子申請で行う場合の手続きは次の通りです。

賃金集計表を作成する


紙で行う場合と同様に賃金集計表を作成します。

e-Gov電子申請手続検索を利用して「労働保険年度更新申告」を検索する


e-Govの電子申請はとてもたくさんの種類があります。
労働保険の年度更新の手続きのページには、手続検索から「労働保険年度更新申告」と検索すると遷移することができます。

申請書入力画面に必要事項を入力


労働保険年度更新申告の申請書入力画面に必要事項を入力します。
入力したデータと電子証明書を保管します。

保管したデータを送信


保管したデータと電子証明書の送信を行います。

保険料を納付する


送信が終わると保険料の納付に必要な情報が表示されるので、保険料の納付を行います。

市販の電子申請ソフトや労務管理システムで電子申請を行うことも可能

e-Govは外部連携APIを公開しているので、これを使って申請ができる電子申請ソフトや労務管理システムが市販されています。
これらを用いて労働保険の年度更新をすることも可能です。

まとめ

このページでは労働保険の年度更新についてお伝えしました。
労働者を雇用していると手続きが必要となる労働保険は年度更新が必要で、適切に行わなければペナルティを課せられることもあります。
適切に行えるよう不明点がある場合には専門家に相談するようにしましょう。

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