特別条項付き36協定とは?残業時間の上限と超えた場合のリスクについて解説

更新日:2023/08/30

労働基準法では労働時間の上限に定めがおかれていますが、その定めを超えて働かせるためには36協定というものが必要です。 そして、通常の36協定を超える残業時間の設定をするためには、特別条項付き36協定の締結が必要とされます。 このページでは、特別条項付き36協定について、残業時間の上限に関する上限と、上限を超えた場合のリスクと併せて解説します。

特別条項付き36協定とは

特別条項付き36協定とはどのようなものなのでしょうか。
労働時間に関する原則と併せて確認しましょう。

労働時間に関する原則

労働時間についての原則として、労働基準法32条は次のように規定しています。

  • 1週間について40時間を超えて労働させてはならない
  • 1日8時間以上労働させてはならない


この規定に違反した場合には、労働基準監督署から各種行政指導を受ける可能性があるとともに、労働基準法119条1号によって6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑に処せられる可能性があります。
特に何も特別なことをしていない場合には、残業や早出などの時間外労働をさせることは違法であるとされているのです。

36協定とは

労働基準法36条は、

  • 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合
  • 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者


との書面によって協定を交わし、その書面を労働基準監督署に届け出ることによって、労働時間を延長し、又は休日に労働させることができるとされています。
この協定のことを、規定されている労働基準法36条の数字にちなみ、36協定(さぶろくきょうてい)と呼んでいます。
ほとんどの企業で残業・早出などの時間外労働をすることがあるのですが、その場合にはこの36協定の締結・届け出がされていることになります。
36協定においては次の事項を定めることとなっています。

1.労働時間を延長し又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲


2.労働時間を延長し又は休日に労働させることができる期間


3.労働時間を延長し又は休日に労働させることができる場合


4.対象期間における1日・1ヶ月・一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数


5.労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項



なお、36協定を結んだ場合でも、次の者については異なる規定があるので注意しましょう。

  • 年少者(18歳に満たない者):労働基準法60条1項で労働基準法36条の定めに関わらず時間外労働が制限される
  • 育児・介護をしている労働者:育児介護休業法17条によって1ヶ月24時間・1年150時間に制限される
  • 妊産婦の労働者:労働基準法66条2項で36条の定めに関わらず時間外労働が制限される。
  • 管理監督者:労働基準法41条2項によって労働時間に関する規定を受けない


労働基準監督署に届け出る場合には、届出書のWordファイル・PDFファイルと記載例が各都道府県労働局のHPに用意されているので、これを利用して届け出を行います。
時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|東京労働局
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/36_kyoutei.html

特別条項付き36協定とは

特別条項付き36協定とは、通常の36協定の内容を超える時間外労働をする場合に締結されるものです。
業種によっては繁閑期がはっきりしていて、特定の時期にのみ忙しいような場合や、緊急の対応が必要となる場合もあります。
このような業種では、このような業務に対応できるように、残業の条件時間をさらに伸ばすことができるようになっています。

特別条項付き36協定による残業時間の上限

では、特別条項付き36協定で認められる残業時間の上限を確認しましょう。

通常の36協定で認められる残業時間の上限

まず、通常の36協定を結んだ場合に認められる残業時間の上限については労働基準法36条4項で次の通りに制限されています。

  • 月45時間
  • 年360時間


この上限に違反した場合も同様に労働基準監督署からの行政指導や、労働基準法119条1号によって6ヶ月以下の懲役又は30万円以下罰金刑という刑事罰を受ける可能性があるので注意が必要です。

特別条項付き36協定で認められる残業の上限

特別条項付き36協定が適法に結ばれている場合に認められる残業の上限については次の通りです。

  • 年720時間
  • 1ヶ月100時間
  • 2ヶ月~6ヶ月の平均80時間


1ヶ月100時間・2ヶ月~6ヶ月の平均80時間の例外については、年6回まで有効であり、これを超えることはできません。
この上限に違反した場合も、ここまでと同様に行政指導や労働基準法119条1号による刑事罰を受ける可能性があります。

限度時間を超過した労働に対して支払う割増賃金

上限時間とともに注意が必要なのが割増賃金の支払い義務です。
割増賃金は次の区分に応じて割増率が異なります。

  • 1日8時間以内:割増なし
  • 1日8時間・週40時間を超えた場合:25%以上
  • 時間外労働が週60時間を超過した場合:50%以上
  • 時間外労働が深夜労働(22時~5時)である場合:50%以上
  • 時間外労働が休日労働である場合:35%以上
  • 時間外労働が休日労働・深夜労働である場合:75%以上


割増賃金の支払いをしない場合についても、労働基準法119条1号によって刑事罰となる可能性があるので注意が必要です。
割増賃金には時間外労働の上記の区分のほかに、深夜労働・休日労働である場合の次の割増率も確認しておきましょう。

  • 深夜労働:25%
  • 休日労働:35%%以上
  • 休日労働が深夜労働である場合:60%以上:50%以上

限度時間の超過が認められる場合は具体的に定める

通常の36協定を締結する場合でも、特別条項付き36協定を締結する場合でも、原則1日8時間・週40時間の労働時間を原則とする例外について、やむをえない例外として認められるものです。
そのため、36協定・特別条項付き36協定を結ぶ場合には、労働時間の限度の超過が必要な場合を具体的に定める必要があります。

限度時間を超過した労働者に対しては健康福祉確保措置が必要

特別条項付き36協定をする場合には、限度時間を超過した労働者に対しては健康福祉確保措置が必要とされています。

健康福祉確保措置とは、限度時間を超過した労働者に対して、会社が行わなければならないとする措置です。
労働安全衛生法66条の8・労働安全衛生規則第52条の2では、労働時間が80時間を超えた労働者に対しては、医師による面接指導をしなければならない旨が規定されています。

これとは別に会社が定めなければならないのが健康福祉確保措置で、届出書の様式にも記載する必要があり、36協定の書式の裏面(記載心得)として、次の10つの項目からどれか1つを選択して届け出をすることになります。

  • 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
  • 労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。
  • 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
  • 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
  • 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
  • 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
  • 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
  • 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。%
  • その他


会社の実情に応じて、これらの方法の中から適切なものを選ぶようにしましょう。
健康福祉確保措置を実施したときには、実施状況を記録し3年間保存する義務があるので、併せて知っておきましょう。

36協定に関する注意点

36協定については次のような注意が必要です。

従業員の増減によって36協定が無効にならないように注意

36協定は上述したように、従業員の過半数で組織する労働組合か、従業員の過半数を代表する者と結ぶ必要があります。

しかし、36協定を結んだ当初は、従業員の過半数で組織する労働組合であったものの、その後の従業員の増減によって、当該労働組合が従業員の過半数で組織されていないようなケースもあり、これにより36協定が無効となってしまい、残業をさせることが違法となる場合があります。

実際に、2015年に発生した電通社員過労自殺事件後に行われた捜査で、電通がこのような状態にあったことが報道され、後に従業員の過半数を代表する従業員と36協定を結びなおしています。
従業員の増減がある場合には、36協定が無効になっていないか、一度結んだ36協定も確認するようにしましょう。

36協定違反には多大なリスクがあり軽視できない

ここまでお伝えしたように、36協定違反には、行政指導・刑事罰などの重大なリスクがあります。
また、上述した電通社員過労自殺事件では大々的に報じられたほかにも、最近でも2023年8月7日に報道されたJR西日本の36協定違反のように、報道で広く報じられています。
報道などによらなくても、インターネット・SNSを利用して広く拡散されてしまう可能性もあります。
その結果、大きく企業イメージを損なってしまうことになります。
36協定違反は会社にとって非常にリスクが高い行為であると認識し、絶対に違反しないように注意が必要であるといえるでしょう。

まとめ

このページでは、特別条項付き36協定についてお伝えしました。
実際に有名な大手企業も36協定の違反で刑事罰を受けるなど、ルールが非常に細かく、知らず知らずのうちに違反していたり、トラブルになりやすかったりするのが労働時間・36協定についての問題です。

行政指導や刑事罰、事実上のリスクとして企業名の報道をされる可能性もあるので、特に労働者に重い労働を強いることになる特別条項付き36協定を結ぶ場合には、慎重に行う必要があります。
専門家に相談し、リスクの無い特別条項付き36協定を結ぶようにしましょう。
助成金に関するお問い合わせ・無料相談 03-6831-3778

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